「カルラディア北方叙事詩のための備忘録」より資料を抜粋してここに記す。
エレルダ村
カーギットとスワディアとの国境沿いの村、エレルダは、その立地上、戦争が起こる度に国境線の位置が変わり、その都度所属する国が変わるような状態が続いていたが、ハリンゴス城主、ハリンゴス卿の所領となるとスワディア領として暫し安定した統治がなされた。
エレルダ近郊にある豊富な森林資源と、カーギットとの国境であるという地理的条件を利用し、スワディア王ハルラウスはこの地へ大勢の兵を率いて巻き狩りを行い、カーギットに対して自国の兵力を誇示し牽制することに利用した。
後にスワディア国はカーギットへ突然の宣戦布告を行い、ハリンゴス卿を主軸とした騎兵部隊による電撃的な急襲を行い、ウーハン城を陥落させる。ウーハン城がハリンゴス卿の所領となると、エレルダ村は若きミルカウド卿へと割譲されるに至る。
スワディアは、この巻き狩りを行う為の用地として、エレルダ周辺にあった小さな集落などを全てエレルダに併合させた。この時に家を取り潰しとなった貴族たちが数名いた。変態紳士の一家もその犠牲者の一人である。
変態紳士について
彼の父の代では、エレルダ近郊の小さな集落を所領とする貴族であったが、彼の父が亡くなるとその所有権は、前述した理由等から父親の代で失効され、集落はエレルダに併合された。
彼は、父の残した財産で隊商を編成して収益を得、貴族の称号を金の力で維持した。国王や元帥から、遠征への随伴の任務などがあっても彼は病気療養を理由に全て断った。その代わりに、病をおして毎年プラヴェンへ出向き、決して少なくない額の金品を上納した。貴族たちは彼が病気の演技をしていることも知らずに、病魔に冒されながらも国家のために上納をかかさず行う彼の姿を賞賛し、貴族としての務めが果たせない事については目をつぶった。
彼の隊商は収益の増加とともに増え続け、上納金も増やし続け、他貴族からの同情と感銘を得ることに尽力し、自身は屋敷の中に引き篭もって自堕落な生活をした。
彼には異常な性癖があり、しばしば隊商のリーダーへ奴隷商から少女を買い付けるように指示した。カルラディアでは奴隷制度は廃止されていたが、それでも、戦争孤児や貧困層などから引き取った子供たちを流通させる業者が少なからず存在していた。デシャヴィも、名目上は嫁入りという事になっていたが、業者の手によって送られた少女のうちの一人であった。
金と権力を得た変態紳士であったが、後に結核を患い、本当の病魔に冒されることとなる、自業自得である。しかし彼は自身と自家に対する国家からの仕打ちや、自身の不運なる運命を恨み、嫉妬し、性格はより陰湿なものとなっていった。普段は自室に篭って療養するが、調子の良い日には酒を飲んで暴れるという自暴自棄の生活を送り続けた。