<登場人物紹介>
m-・・・精神の建屋が水素爆発し、心の燃料棒(=自我)が一部溶融してしまい予断の許さない男
エダノ・・・m-が生み出したメタファー、m-の内的状況に詳しい、m-とneta
デシャヴィさん・・・CV:林原めぐみ
—
「圧力容器の気圧減少!」
「なにぃ!なぜだ!!水位が下がっていってるぞ!注水いそげ!なにやってんの!」
「しかし大人のキリンレモンの弾数が残りわずかなのです!」
「なんだとぉ!m-のやつ、いつも買いだめしていただろ!!」
「それが・・・ここ数週間は、いつものように買いだめすると買占め厨みたいに見られるよなぁー、とか思って買い控えをしていたんです」
「くっ!!風評を気にした結果がこれかっ!仕方がない!海水でもなんでもブチ込め!!」
「ダメです!海なし県です!」
「いかん!露出するぞ!!!」
「圧力容器内の温度が急上昇!溶融が再開された恐れがあります!!」
「まずいな・・・どうしたら・・・!」
焦る二人のおっさんの後ろから、ずいずいと前に出てくるデシャヴィさん。
「おい君!防護服なしじゃ危険だ!被曝するぞっ」
「もうだめぽぉ・・・・再臨界しますっっっっ!!!」
きゅいいいいいいいん
デシャヴィ「・・・あなたの自我は、何色?」
<<<<<ピカッッッッッ>>>>>>>
がばっ!!!
・・・はーっ、はーっ・・・・夢、か・・・・。
隣には、ぐっすりと眠るエダノが居た。
・・・なんで俺は、エダノなんかと寝ちまったんだろう・・・俺はどうしちまったんだろう。あの、エダノに襲い掛かった時に感じた、ドロリとした感覚は、溶融したっていう、俺の自我の一部だったんだろうか。エダノは言った”一度溶融したものは元に戻ることはない”と。もし、溶融していない部分が、今の俺の自我であるとしたら、溶融してドロドロになった部分は、いったい何なんだろう。
>>>お前以外の何か、だよ
m-はその声に驚いて体が硬直した。寝ているエダノ以外には人がいないはずの部屋の、隅のほうから人の声がしたことも十分驚きだったが、なによりその声が自分自身の声であったことに恐怖を感じた。
・・・お、おまえは、だれ・・・
部屋の隅を凝視すると、黒い影のような物体があることに気付いた。影のような物体は、のそりと立ち上がったような風に一回り大きくなった。
>>>くくく、わかってるくせに、俺がその、ドロドロに溶融した部分の、お前自身だよ
・・・お・・・・おまえがっ、おまえが・・・、ようは、おまえがエダノと寝たんだな、俺の体をつかってっ。そういうことか?
>>>くくく、まあ、そういうことだね。しかし、俺の体、なんて言ってられるのも、今のうちだ。炉心溶融はどんどん進んでいってる、燃料棒が半分以上溶融したら、俺とお前は入れ替わることになる
・・・!!!
——なにっ、実体化してしまったのか!貴様ァッ!!!
エダノはものすごい勢いでベットから飛び起きて影のような物体へ飛びかかっていった、影はスルリとした動きで横に避けた。
>>>エダノ。もうあきらめたほうがいい。あいつはもう終わりだ
——いいや、終わってなどいないぞ!
エダノはもう一度、影に掴みかかろうとしたが、影のほうが巧みな体捌きで避けつつ左ジャブをエダノの顔面へ打った。その一撃を受けてエダノのほうも打撃勝負を見越した構えに変えた。
キックボクシングよりは幾分間合いの狭い、MMAのような緊迫した間合いとなった、お互いのすべての打撃が射程距離に入っている。m-は無意識に握りしめていた拳が汗ばんでいるのを感じた。
両者オーソドックスに構え、相手の出方をうかがった。
影が右ローを見せる、エダノは少しタイミングが悪かったがカットした。
一呼吸置いた後、エダノがすこし踏込むそぶりをみせると、その動きに反応して影が右を見せながら両足タックルへと移行した。
するどい飛び込みだった
しかしエダノは冷静に膝を置いていた。影の顔面を的確にとらえる。
ゴキィッ!
>>>がっ・・・!!!
影はどさりと倒れこみ、そのままドロドロの黒い粘液のようになった。
・・・エダノつぇええええええ!!!
床に溜まった黒い粘液は、徐々に容積を少なくしていくようにして消えていった。
——ふう、m-さん、ご無事でしたか
・・・エダノおまえ、総合とかも出来るんかよ、すげえ、頼もしすぎるだろ。
——さきほどの者は、m-さんの内的世界においては超高濃度の放射性物質そのもので、大変危険な存在でありました。つまり・・・
・・・俺の、溶融した自我の一部なんだろ?
——そうです、物分かりが良いですね
・・・さっきアイツが言ってたからな。いずれ燃料棒が半分以上溶融すると、アイツが俺の自我と入れ替わるらしい。
——心の燃料棒が半分以上の溶融を示すと、m-さんも現在の自我を維持することは非常に困難となるのは間違いありません
・・・溶融を止めるには、どうしたらいいんだ?
——とにかく今は注水作業によってゆっくりと冷やしていくしかないでしょう
・・・大人のキリンレモン
——そうです。絶やさずに飲み続けるしかありません
・・・しかしエダノよ、俺の原子炉というのは、元から大人のキリンレモンを必要としていたのか?
——いいえ、本来は原子炉の温度を一定に保つための冷却装置が稼働しているのですが、m-さんは何らかのきっかけとなる事象によってその装置が動かない状態となってしまったのです、精神の建屋が崩壊したのも、この冷却装置が機能しないために発生したのです
・・・冷却装置か・・・その装置は壊れているのか?直すことはできないのだろうか・・・
——冷却装置はある程度修復作業が必要だと思われますが、電力さえ確保できれば起動させることは可能なはずです
・・・電力か、じゃあ電力をさっさと供給してやればいいじゃん
——それが難しいのです、電力を復旧させるには、内的世界に送電線を引き込む作業が必要となります、これは、m-さん自身にしかできない作業です
・・・なんで?俺、送電線なんて触ったことないよ、専門家にやってもらったほうが絶対うまくいくでしょ
——m-さんの内的世界に、他者が外側から介入することは不可能なのです、つまり私秘性です。本人だけができることなのです、ちなみに送電線を引き込む作業、という作業そのものもある種のメタファーですから、専門的知識は必要ありません。
・・・なんかよくわからんが、まあつまりは、俺が何か、やる気にならないとダメなわけだ。
——そうです、m-さんが行動すれば、状況は好転する可能性が大いにあります。
・・・よし・・・なんとか、やってみよう。
——そうですか、では私も微力ながらお手伝いいたします
(つづくっぽい!)